新興・再興感染症の流行に対抗する日本の国策
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| 岩本 愛吉教授 |
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東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 感染症分野 分野長 |
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新興・再興感染症研究拠点形成プログラム アジア感染症研究拠点 中国拠点研究代表 |
2003年に世界中に流行した重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome;SARS)は、38 ℃を超える高熱、呼吸困難、低酸素血症、肺炎といった重篤な症状を特徴とする新しい感染症(新興感染症)であった。原因はSARSコロナウイルスという新種のウイルスで、8,098人に感染し、774人が死亡したとされている。2003年3月、SARSは香港を起点に世界中に拡散し、世界保健機関(WHO)の発信により広く知られるようになった。しかし、中国広東省においては、2002年11月頃から“非定型肺炎”として地域的な流行が認められていたことから、WHOへの通告の遅れなど、中国政府の初期対応が問題となった。
日本政府は2004年に「経済財政運営と改造改革に関する基本指針」の中で、SARSをはじめとする新たな感染症に対して、迅速かつ適切に対応できる体制を確保することを定めた。さらに文部科学省の「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」では、新興感染症が発生する可能性が高い国に日本の研究拠点を作ることで、新興感染症が発生した際にその国に貢献するという方針を固めた。
アジア感染症研究拠点の立ち上げ
冷却装置内蔵型の遠心機
相次いで打ち出されたこれらの政策を具体化すべく、文部科学省は2005年から「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を始動させた。日本の感染症研究拠点を選抜し、新興・再興感染症が発生している、あるいは発生する可能性の高い国との共同研究を推進するためのインフラ強化を目的としている。現在までに国内8大学、2 研究機関、海外8ヶ国12拠点が参画し、人材を含む研究資源や情報を迅速に相互活用する体制の構築に力を入れてきた。その中で、東京大学医科学研究所は中国研究拠点として採択を受けており、岩本教授は拠点代表として強力に事業を推進している。
「中国は先進工業国と発展途上国の2面性を持っています。発展途上の農村地域で感染症の診断技術を移転する方向もあると思いますが、進歩の著しい沿海部で最先端テーマに取り組む研究者と共同研究をし、科学技術外交に貢献し、若手の人材育成にも寄与する方向もあると思います。当面の方向として、私は後者を選択しました。」と語る岩本教授は、北京にある中国科学院微生物研究所と生物物理研究所という主要な2 研究所に日中連携研究室を設置した。また、中国農業科学院ハルビン獣医研究所においても、河岡義裕教授と陳化蘭教授の間で高病原性鳥インフルエンザウイルスに関する共同研究が行われている。

アジアの「いま」を読む
現在、医科研先端医療研究センター感染症分野の分野長も務める岩本教授は、医学部卒業後臨床医として出発した。その後、3年間のカナダ留学(1984-1987)を経て日本に戻ってからはHPV、HCVなどの基礎研究に従事した。1980年代中盤からHIV/AIDSに興味を持っていたが、「研究室で実験だけしていたら自分のアイデアはすぐ枯渇する、と思いました」。医科研ではHIV感染者の診療を行いつつ、研究に従事できる環境があることから、1994年に赴任し、現在に至っている。HIVの臨床医に戻ってから約3年間は有効な治療薬がなく、病気の進行、つまりウイルス感染症の自然経過を見ていることしか出来なかった。次第に治療法が進歩し、ほとんどの患者さんを外来通院で治療できるようになった。しかし、ワクチンができていないこと、薬剤耐性の問題など、研究すべきことはまだまだたくさんある。臨床に携わっていると、治療の進歩に即した患者さん及び研究のニードをより的確に把握することが可能となるので、感染症研究におけるフィジシャン・サイエンティストの役割は大きい。
その経験はアジア感染症研究拠点の活動にも活かされているという。「感染症の臨床や疫学、研究の進歩には一定の流れがありますが、日本での対策がすぐ中国で応用できるわけでもありません。実際に中国に行き、ともに研究する必要があるのです。」
感染症研究は、一方的な押し付けではなく、その地域の科学的リテラシーや研究レベルを把握し、何が必要なのかを適切に見極め、それに合わせて対処することが重要となる。岩本教授は豊富な経験と最先端の技術力を最大限に活かして、これからも感染症との戦いに挑む。

























