カリフォルニア州のシリコンバレーではAppleやHewlett-Packardのように創設者の自宅ガレージからイノベーションが始まることも少なくない。近年はITやエンジニアリングの分野だけでなく、分子生物学の分野にDIY(Do It Yourself)でイノベーションを起こそうとする動きが出てきた。
ガレージ生まれのPCR
2010年の5月、シリコンバレー在住で友人であったJankowski Jankowski氏 とJosh Perfetto氏は安価で小型のサーマルサイクラーを自宅ガレージで開発した。OpenPCRと名づけられたその装置は、科学者だけでなく、学校の教諭や、市民科学者等、出来るだけたくさんの人に手に取って貰えるようにと、現在約$ 600で発売をしている。OpenPCR社の共同創設者のJankowski氏は「安くとも30万円もするサーマルサイクラーは、アカデミア内か研究開発の盛んな企業でないと購入するのは難しい。僕達のようなBiohackerと呼ばれる生命科学のファンや中学高校の先生の要求に答えることが出来るようなプラットフォームを開発したかった」と語った。
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| Jankowski氏らのラボ Jankowski氏らはBioCuriousという自前のラボを構え、OpenPCRの開発・製造を行いながら、一般向けに実験講習も実施している。訪問当日は広いラボ(写真左)に隣接した小部屋でJankowski氏が一般向けに使い方の講習を実施していた(写真右)。 |
誰にでも開かれたサイエンスの原点
分子生物学に興味を持っている市民がシリコンバレー周辺では多い。特にIT企業のエンジニアなど、知的労働に就いている両親からの要求は高く、最先端の科学を学ぶ学校現場の教諭も多い。実際、Jankowski氏も平日は別の仕事に携わっている。そのような風土の中で生まれたOpenPCRの理念は「誰にでも開かれた」ものであること。購入できる組み立て式のOpenPCRキットの設計図は全て公開されている。ソースの公開には誰にでもサイエンスがアクセス可能だという想いが込められているのだ。
もともとは中古品のサーマルサイクラーを購入して活用することを計画していたJankowski氏らだが、サイズが大きすぎたこととすぐに壊れてしまったことが自分たちで装置を開発するきっかけになった。同じようにOpenPCRを購入して壊れてしまったら工作が下手な人にとっては修理が大変なのではという質問を我々がすると、「実際に僕達もどうやって作るのか最初はわからなかったけど作れたし、購入者には満足してもらっているよ。実際に作る行程自体を楽しんでいる人も多いんだ」と、Jankowski氏。材料を簡単に手に入れて修理ができる点もOpenPCRの強みといえるだろう。
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| OpenPCRの外観 OpenPCRは本体を木製の筐体が覆っている。正面から見るとOpenPCRの名前とともに、開発に関わった人たちのフルネームが刻印されている(a)。横にも開発に関わった人たちの名前が刻印されている(b)。装置の上面にタッチパネル式の操作パネルがある。また、写真からわかる通り現行モデルのサンプルのウェルの数は16 個になっている(c)。 |
OpenPCR の未来
少し前には1年休暇をとってOpenPCRの開発に取組んだと語るJankowski氏だが、目指すところはOpenPCRだけに限らない。リバネスが学校の教員向けに開発した簡易組み立て式のDNA電気泳動槽の話をすると、「そういったものを作りたかったんだ」と賛同してくれた。今はサーマルサイクラーだけだが、将来的には電気泳動槽など他の機器の開発にも取組んでいきたいと意気込みを見せる。
さらにJankowski氏をはじめとするOpenPCR開発者が運営に参加しているオープンラボBioCuriousではOpenPCRを使った実験教室が開催されている。受講者はサイエンス好きの親子連れだけでなく、シリコンバレー在住のITエンジニアも多く見られる。「最終的には一家に一台OpenPCRがあるようにしたい。そのためにまずは興味を持ってくれた人に確実に届けるような展開を考えて」(Jankowski氏)。
これまではアメリカの西海岸を中心に広がって来たOpenPCRだが、いよいよ文字通り世界に対してもオープンになる時が来た。日本での代理店をリバネスが引き受け、日本の教育現場への開かれたサイエンスの発信が始まる。OpenPCRをきっかけにサイエンスにふれた生徒たちの中には、基礎研究に開眼する子供もいれば、ものづくりに興味を抱く子供もいるだろう。そうした次の世代が日本の、ひいては世界のサイエンスやテクノロジーを牽引していく原動力になっていくことに期待が膨らむ。「日本の学校の先生に届けたいね」というJankowski氏の思いがこれから形となって現れて来ることだろう。
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| Jankowski氏(左)と握手をするリバネス代表の丸(右) OpenPCRの日本での販売はリバネスが行うことになった。Jankowski氏が抱えているのがOpenPCR。本体が非常に小さいことがわかる。 |

























