関連する様々な要素
ヒストンの化学修飾はヒストン−DNA相互作用の変化やリモデリング因子、コアクチベーター、サイレンシング関連因子のリクルートなど様々な制御の引き金となる。化学修飾されたヒストンに対する優れた抗体が次々と開発されたことや、次世代シークエンサーの登場により、この10年の間にヒストンの化学修飾と遺伝子発現の関係について非常に多くの知見が得られている。哺乳類のヒストン修飾因子だけでも20を超えるものが同定されている※2。これらがメチル基、アセチル基、ユビキチンなどによってヒストンのリジン、アルギニンを修飾することで転写を正または負に制御する。さらに、ヒストンに関してはバリアントがいくつも報告され、リジンの修飾に関してはモノメチル、ジメチル、トリメチルという異なるメチル化の度合いが存在することが明らかになるなど、その制御は実に多岐にわたる。
一方DNAのメチル化に目を向けると、2008年のNatureで多能性細胞と分化した細胞でのメチル化マップが報告されたことをはじめ※3、メチル化DNAとヒストン修飾の関係性などが次々と明らかになってきている(図1)。

研究を支える基盤技術
ヒストン修飾と転写制御の関わりについては、クロマチン免疫沈降法を技術の核に据えたChIP-on-chipと、その後に登場したChIP-seqがゲノムワイドな解析を一気に推し進めた。特にChIP-seqは1回のアッセイでゲノム全体に対するタンパク質位置情報を高解像度、高感度で得ることができるため、今やエピジェネティクス関連の研究を行う上での強力なツールとなっている。シークエンス技術もさることながら、各種のエピトープに対して高い感度を持つ抗体を容易に入手できるようになったこともこの背景として見逃せない。
メチル化DNAのポジションを解析する手法としては従来から用いられている亜硫酸水素塩法(Bifulfite assay)が主流となっている。この方法は、亜硫酸水素塩の付加によってシトシンがウラシルに変わるのに対して、メチル化シトシンは無反応であることを利用している。処理後にPCRをかけることでシトシンだった塩基部分はチミンに、メチル化シトシンだった塩基部分はシトシンとして増幅される。ただし、この手法は処理中にDNAに損傷が入りやすいという問題もある※4。近年になり、京都大学の西本清一教授ら※5、ドイツのLudwig-Maximilians-UniversityのThomas Carell教授ら※6、理化学研究所の岡本晃充氏ら※7は、新しい方法を提案している。
発生研究の現場から
エピジェネティクスの研究が進んでいる分野の1つが発生・分化の分野だ。DNAメチル化に関しては精力的な研究がなされ、発生の初期においてはダイナミックなメチル化の変化が起こっていることがわかってきている。例えば、哺乳類の初期発生では、雄性前核内でプロタミンから体細胞型ヒストンへの変換が起こった後、短期間の内に積極的な脱メチル化が進行し、それに引き続いて母方のゲノムが脱メチル化されていく。胚盤胞になる過程では、内細胞塊と栄養外胚葉で異なるメチル化パターンを形成しながら、ゲノム全体ではメチル化のレベルが上昇していくことがわかっている※8。また受精後雄性前核でプロタミンから体細胞型ヒストンに変換される時に使われるヒストンは、ヒストンバリアントの1種であるH3.3であるという報告がある※9。H3.3はH3比較した時に修飾のパターンが異なっているため、何らかの機能を果たしていることが考えられるが、このことの生理的な意義についてはまだわかっていないことが多い。
発生においてはクロマチン関連因子の中でもポリコーム群が重要な役割を果たす。例えば、Polycomb repressive complex2( PRC2)はH3K27のメチル化を促進する※8。このメチル化はクロマチンの構造を引き締める作用がある。面白いことに、ES細胞でゲノムワイドにPRC2の分布を見ると、1000異常見つかったサイトの中に発生を制御している遺伝子領域が多く存在し、それらの遺伝子の多くはES細胞中で不活性化されていることが報告されている※8。
エピジェネティクスの研究はようやく全体を見渡すためのツールを手に入れたばかりだ。これから出てくる新たな知見は、医療への応用もさることながら、生命現象の本質をより一層掘り下げていくに違いない。
- ※1 一般にエピジェネティクスと言った場合に、DNAのメチル化による遺伝子発現の変化とヒストンの化学修飾による遺伝子発現の変化を扱っている場合が多いので、本稿でも同様の立場で扱うことにする。
- ※2 The role of chromatin during transcription.Cell.12 8,707-719.
- ※3 Genome-scale DNA methylation maps of pluripotent and differentiated cells. Nature 454, 766-770.
- ※4 Degradation of DNA by bisulfite treatment Bio org. Med.Chem.Lett.17,1912-1915.
- ※5 One-electron photooxidation and site-selective strand cleavage at 5-methylcytosine in DNA by sensitization with 2-methyl-1,4-naphthoquinone-tethered oligonucleotides. J Am Chem Soc.2007 Jun 27 ; 129(25):8034-40.
- ※6 Selective detection of 5-methylcytosine sites in DNA. Angew Chem Int Ed Engl.2008 ; 47(1):181-4.
- ※7 Chemical approach toward efficient DNA methylation analysis. Org Biomol Chem.2009 Jan 7 ; 7(1):21-6.
- ※8 The mammalian epigenome. Cell.2007 Feb 23 ; 128(4):669-81.
- ※9 Dynamic distribution of the replacement histone variant H3.3 in the mouse oocyte and preimplantation embryos.Int J Dev Biol.2006 ; 50(5):455-61.

























