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研究者ブログ

元日本女子大学学長、青木生子先生の式辞

日本女子大学の元学長・理事長を務められ、東北大学卒業生でもある青木生子(あおき たかこ)先生が2018年11月14日午後2時23分にご逝去され、昨年12月26日に大学葬が開かれました。残念ながら出席できなかったのですが、同窓生である母が参列したところ、たいへん立派な、心のこもった会であったと聞き、配布された冊子を送ってもらいました。 青木先生は大正9年(1920年)、東京は日本橋のお生まれで、関東大震災後に大磯にお住まいであったため、県立平塚高等女学校をご卒業後に、旧制時代の日本女子大学校の国文学部に入学されました。太平洋戦争勃発のため、昭和16年(1941年)に繰上げ卒業となり、翌年、東北帝国大学の法文学部国文科に入学され、昭和19年(1944年)9月に繰上げ卒業となり、11月より日本女子大学校の国文学部教員として採用されました。 日本女子大学校の開校は明治34年(1901年)4月20日。創立者である成瀬仁蔵の6年あまりの尽力の賜物でした。数年前の朝ドラ「あさが来た」の主人公「白岡あさ」は、日本女子大学校創立発起人の「平岡あさ」という方をモデルとしています。当初より女子の総合大学を目指し、昭和23年(1948年)に「宿願の」大学にいち早く昇格することができました。青木先生の教員としてのご経歴は、ちょうどそのような大学の大きな変革と重なります。その年に文学部助教授に、その10年後に教授となられました。文学博士(旧制)の学位は昭和37年(1962年)に東北大学から授与されています。 米国ジョージタウン大学へのご留学などを経て、昭和55年(1980年)に日本女子大学の文学部長に就任され、翌年、日本女子大学の第9代学長、学校法人日本女子大学理事長、同窓会である社団法人欧風会会長となられました。学長としては平成元年に名誉教授となられた後の平成3年(1991年)まで10年間の長きにわたり務められ、平成5年(1993年)に勲三等宝冠章を受章されています。 研究では万葉集や紫式部がご専門でした。多数のご著書があり、平成9年(1997年)に『青木生子著作集』全12巻(おうふう)としてまとめられています。ご貢献を讃え、東北大学からは平成19年(2007年)に100周年記念文化貢献賞(教育部門)を授与されました。 さて、上記に書いた情報は、Wikipedia等に公開されているものに加え、母より手に入れた、大学葬の際に配られた冊子をもとにしています。どなたか善意のある方がWikipediaにさらに追記して下さることを願っています。そうでないと、きっと後世からは「あまり情報の無い方」として葬り去られてしまうかもしれません。 冊子には青木先生の折々のお写真の次に、「青木先生からのメッセージ」として、昭和56年(1981年)に『学園ニュース』に掲載された「就任の挨拶」、平成3年(1991年)の「創立九十周年記念式典式辞」、平成5年(1993年)の青木先生にとって最後の「卒業式学長告辞」の一部が掲載されていました。その文章がとても素晴らしいものであったので、さらにその一部を掲載します。 ***** 「創立九十周年を記念して ———創立百周年に向けて———」 (前略)  ところで本学の歴史を省みる時、そこに重要な節目と申しますか、変わり目のあることが認められます。真にあるべき女子教育の理念を高く掲げて、二十世紀初頭に総説された本学は、当初から女子の総合大学をめざして内容充実に励むこと40数年にして、第二次世界大戦後の教育制度改革によって、多年の実績が認められ、昭和23年、宿願の大学にいち早く昇格したのでした。これを創立時に次ぐ第二次建学の時代と申すことができましょう。それから同じくらいの40数年をへてきた今日、本学は九十周年から百周年に当たる二十一世紀とともに、第三次建学の時代をまさに迎えようとしているものであると、そう私は思います。それは、たしかに時代そのものの大きな変遷であると同時に、本学自体が内的必然的に発展していく大きな節目、歩みであるとも私には考えられるのでございます。  古きよき伝統をもっていればこそ、本学は今こそ新しく蘇られなければならない。これを私は体全体で深く感じとったのでございます。創立八十周年を学長就任の年に迎えた私は、“建学の精神の原点に立ち返り明日に飛躍を”をモットーとし、語り続けて参りました。6年前に建てられた成瀬記念館はありがたいことに、まさにこのモットーを具現化したものとなりました。成瀬記念館をよりところとしての“建学の精神の原点に立ち返って明日に飛躍を”という願いは、しかしさらにつきこむとどういうことなのでしょうか。  私の脳裏に思い廻らされたものに、松尾芭蕉の「不易流行」という言葉がございます。これは、芭蕉の俳諧理念の一つを説いたもので、「不易」は不変、「流行」は変化を意味し、ここでいう「流行」とは、単に新しさを求めて変化を重ねてゆくことではなく、風雅の誠(純粋な詩精神)を追求するところから生まれる不断の自己脱皮、変貌を意味しております。「不易」すなわち俳諧の永遠不変の価値は、そうした不断の変化を通じてこそ実現しうるものだというのであります。ところで、時代に先がけて、女子を人間として、自立、向上せしめ、国家および世界の平和に貢献しうることをめざした創立者の教育理念、本学の建学の精神は、5万人の卒業生によって時代を超えて受け継がれてきたものであり、これからも変わらぬ、否、変わってはいけない「不易」なるものだと申せましょう。この価値は、芭蕉の意図した「流行」として、大学においても「自己脱皮と変革」を不断に実行してゆかねばならないということです。 (後略) ***** 「卒業を祝して ———女子大に学んだ意義と幸せを」 (前略)  ところであなたは今、日本女子大を卒業されました。「私は女子大に学んで本当によかった」と、今、思って下さっていればと私は願っています。4年前の入学式の時、私は心をこめていいました。「今、女性たちは自分のあらゆる可能性を試すことのできる時代にきている。自分が本当にやりたいことを見つけ、自らの生き方をさぐるのがこれからの女子大生活である。ひたぶるに何かをめざし、ひたむきに何かにうちこみ、そして自分の中のもてるものに燃えるところに、学生生活の充実と生きがいがあり、あなたの個性も可能性もそこから花開いてゆくことであろう」と話しました。これまでの学生生活の中でそれぞれ自分なりにこうしたものを、何らか身につけて、巣立ってゆくあなたなのです。  「教育とは学校で習ったことをすべて忘れたあとに残っているところのものだ」といった人がありますが、この言葉に大いに共鳴いたします。学校で習った学問智識をすべて忘れてしまったあとに残っているもの、それは、こうした人間として自らの生き方を考える体験・姿勢とでもいうものではないかと思うのです。すなわち、「すべて忘れたあとに残っているもの」こそ、女子大の空気の中で自然に培われた建学の精神、スクールカラーといってよいでしょう。あなたのかけがえのない大事な宝として、自己のよってたつものとして、生涯にかけて培っていってほしいと思います。  先程、昨今の著しい社会変化のことにふれましたが、さらにもう一つ大きな変化として、なんといっても男女の格差是正、女性の活躍を取り上げねばなりません。女性の大学進学率——もっとも短大を含めてですが——が、男子を上回り、男女が逆転したのが、あなたが他の入学した頃であり、男女雇用機会均等法が実施された社会に、本学の卒業生の90%が乗り出してゆいました。あらゆる面で、男女の差別や壁が是正の方向に向かい、女性の力が発揮されつつあるのは、何といっても心強くうれしいことです。とはいえ、まだまだそれは、一部の減少にとどまり、理想の姿にはさまざまの面で道遠しの感があるのも事実です。一方で、女性自身の本当の自覚、勉強、実力、そして主体性の確立が、今後ますますきびしく問われることにもなりましょう。 (中略)  さて、今からたっぷり60年も70年もあるあなたの人生、あなたこそ、二十世紀の舞台の主役を演ずる長距離ランナーなのです。人間として、女性として、たえざる向上をめざしていく生涯学習プランを、かけがえのない人生の中に地道に築いていって下さい。何年経っても、どこにいても「私は日本女子大出身です」と、静かな誇りと自信をもっていえる自分であって下さい。親の存命中は親のありがたさがわからないのと同じように、在学中や卒業したては、学校のありがたさなど実感できないものなのです。しかしやがて、同送の先輩たち、欧風会員が、日本の、いや世界のどこにいっても、温かい手をさしのべて下さり、すぐに心の通じ会える同窓生のありがたさを自覚するでしょう。本学の同窓生の染付差は、他校の人から羨ましがられるほどのもので、生涯の宝物になってゆくはずです。  そして学生時代何気なく目にとめていた「信念徹底」「自発創生」「共同奉仕」が、長い人生の中で、ある日、ある時、しみじみ体得できる指針の言葉に、必ずやなるでしょう。それこそ本学に学んだ意義と幸せを感じることになるのではないでしょうか。大学の評価は卒業生によって決まるといいますが、本当でしょう。あなたが日本女子大の、女子大の存在意義を証明し、高めてゆく方になって下さい。  明日からは皆さん、いろいろなところに散ってゆかれるでしょう。でも、お別れの「さよなら」を私はいうつもりはありません。時が流れ、お互い遠くはなれて住んでいても、あなたの心のふるさと、生きるよりどころに、この母校があることを私は信じております。いつでも「ただいま」と帰ってこられる母校です。「さあ、元気でいってらっしゃい。体には気をつけて」と、あなた方、一人ひとりの全塗に切なる祈りをこめて、門出をお見送りします。これをもって告辞に代えさせていただきます。 ***** 長い引用をタイプしている間に、何度も落涙しました。青木先生のことは母から何度も聞かされていましたし、実家には青木先生の著作もありますが、お姿は、東北大学百周年記念式典で100周年記念文化貢献賞を受賞される様子を拝見したくらいで、直接、お話しさせて頂く機会は残念ながらありませんでした。にもかかわらず、先生の思いが込められた式辞に、こんなにも心を動かされるのは、言葉の持つ力といえるでしょう。大学人としてかくありたいと思いました。 平成5年の卒業式告辞で話された内容が、25年経って平成が終わろうとしている今日にもなお、あまり変わっていない状況であることに忸怩たる思いがあります。平成という時代が何であったのか、あらゆるものがIT化されていく中で、私たちはいくつかの大きな問題を放置してきてしまったのではないかと改めて感じました。 大正、昭和、平成の移り変わりをご覧になった青木先生は、享年97歳でついに天に召されていかれましたが、きっと天国からも後進を温かく見て下さっているものと信じます。合掌。 【関連リンク】(順次整備します) 東北大学萩友会HP:東北大学ひと語録《東北大学へ行って、私はおよそ学問の研究の何たるかをしりえたのでした》

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